補助金の事業計画書で要求されること
前回の行政書士サービスのブログ記事では、経営管理ビザに必須な事業計画書について述べました。しかし、事業計画書が必須なのは経営管理ビザだけではありません。実は、補助金の申請においても、事業計画書あるいは事業計画書的な考え方が不可欠になります。そこで、今回のブログ記事では、補助金の申請に必要な事業計画書について解説していきます。
補助金申請の事業計画書においても、経営管理ビザの事業計画書と同様に、ビジネスにおける4W3Hの項目を盛り込む必要があります。なぜなら、この4W3Hはビジネスの基本中の基本だからです。経営管理ビザの事業計画書の場合、この各項目に従って具体的に内容を書いていけば審査は通ります。しかし、補助金申請の事業計画書では、これだけでは不充分です。なぜでしょうか。
これは考えてみれば当たり前で、経営管理ビザが許可を得るためのものであるのに対して、補助金はお金を得るためのものだからです。入国管理局は、申請者に経営管理ビザの許可は与えますが、お金を与えるわけではありません。もちろん、申請者の事業の内容を審査しますが、それは事業の実体性を見るためであり、その事業が成功するか否かに審査の力点が置かれているわけではありません。
前回のブログ記事で説明したように、入管の懸念事項はマネーロンダリングなので、申請者の事業が成長するかどうかは二次的な関心事にすぎません。実際、最初に事業の実体性を確認できれば、あとはその事業の収益がトントンであっても事業が存続可能と判断すれば更新を認め、それが赤字で事業が存続不能と見なせば更新を認めなければ済む話です。
これに対して、補助金の場合は申請者に金銭を給付するわけですから、その審査がより厳しくなるのは当然です。しかも、補助金の目的が事業の継続・維持にとどまらず、その拡大・発展のサポートにある場合は、必然的に事業の成長性が問われます。また、補助金の目的が事業の維持・継続である場合でも、事業の成長性を記載すれば、それが審査に有利に働くことは間違いありません。
それでは、事業の成長性を示すためには、ビジネスにおける4W3Hに加えて、どのような項目を事業計画書に組み込めればよいのでしょうか。そのためには、自らの事業が世の中で代替不能な役割を担うことを示す必要があります。つまり、自らの事業がそれが属する分野・市場において独自の価値を持つこと、あるいは競合と比べて優位な価値を持つことを示さなければなりません。
そして、このことを考える上で役に立つフレームワークがSWOT分析(スウォット分析)です。それゆえ、次にSWOT分析について解説します。
SWOT分析とは何か?
SWOT分析とは、Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4項目を軸に自社事業の市場価値を測るための分析方法で、戦略策定やマーケティングの意思決定、経営資源の最適化などを行う際に用います。
具体的には、まず自社の状況を競合や法律、景気や市場トレンドといった外部環境と、資産や立地、認知度やブランド力、さらには商品・サービスの品質や価格、技術力といった内部環境に分けます。それから、それぞれの環境が持つプラス面とマイナス面を見ていくと、内部環境のプラス面はStrength(強み)、内部環境のマイナス面はWeakness(弱み)、外部環境のプラス面はOpportunity(機会)、外部環境のマイナス面はThreat(脅威)として分類されます。そして、SWOT分析を行うことで、自社の売り上げを構成する要素を明らかにすることができます。
実際のSWOT分析のやり方としては、まずは上の例のように4項目の内容を具体的に記述して現状を把握することから始めます。次に、下表のようにSWOT分析の4項目を掛け合わせるクロスSWOT分析を行って、自社の事業戦略を策定します。そして最後に、その事業戦略を実行計画にまで落とし込みます。
クロスSWOT分析の強み × 機会においては、自社の強みを使って、機会を活かすためにはどうすべきかを考えます。会社や事業の成長を目指す場合は、この分析が適しています。それゆえ、ここから導かれる戦略は事業をさらに積極化するものになるので、自社の強みを最大限に活かすための機会を作り、市場シェアを広げていく施策を検討します。
強み × 脅威においては、自社の強みを活かして脅威を避ける、あるいは脅威を機会に転換することを考えます。業界全体に及ぶ脅威も、取り組み方によってはビジネスチャンスになり得ます。脅威を回避するだけではなく、その中でも機会を見出すために、競合と差別化するための戦略を検討します。
弱み × 機会においては、自社の弱みを補強して、それを機会に活かす方法を考えます。せっかくの機会を逃さないために、弱点をどう改善すべきかに焦点を合わせます。あるいは逆に、自社の弱みを機会を利用して克服する戦略を考えます。 後者の場合は、欠点の部分を補填できるような機会を設けることが大切です。
弱み × 脅威においては、自社の弱みを理解して課題を解決しつつ、脅威を避けるか最小限にするためにはどうすべきかを考えます。弱みと脅威が重なれば、致命傷を受けるかもしれません。よって、最悪の結果にならないようにリスク管理を行いながら、事業の縮小、撤退、業種転換まで視野に入れて考えなければなりません。これらをまとめると、以下の戦略に要約することができます。
SWOTクロス分析を行うことで具体的な戦略を練ることができますが、自社の強みを伸ばす施策を取るのか、あるいは弱みを補填する施策を取るのか、どちらを優先するかは企業によって異なります。しかし、その中で最も競合に対する優位性を出しやすいのは「強みと機会の掛け合わせ」です。
しかし、「そうは言っても、自社の弱みならわかるが、自社の強みはわからない」、「自社の独自性、競合に対する優位性が見つからない」と言った声が聞こえてきそうです(笑い)。けれども、自社の独自性、競合に対する優位性を創り出すことは、想像しているほど難しくはありません。そこで、次に自社の独自性、優位性を創造する方法について説明します。
自社の独自性・優位性をどのように創造するか
自社の独自性・優位性をどのように創造するかを考える際、まず抑えるべきは、独自性を持てば優位性は自動的に後から付いてくるということです。それゆえ、いかにして独自性を創り出すかということにフォーカスする必要があります。そして、独自性の創造を考えるときに想起されるのが、イノベーション(innovation)という言葉です。
イノベーションという言葉は、誰もが聞いたことがあると思います。日本では「技術革新」と訳されることが多いため、最先端技術を誇る先進企業の広告などによくこの言葉が登場するからです。しかし、イノベーションがオーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが考案した言葉であること、そして彼のこの言葉の定義の中には技術以外の分野も含まれていることは、あまり広くは知られていません。そして、もっと知られていないのが、イノベーションの原義は「新結合」であるということです。
「技術革新」と「新結合」、このイノベーションという言葉の邦訳の違いが、実は自社の独自性を創造する上でも違いを生みます。なぜなら、「技術革新」というと、どうしても新しい技術をゼロから生み出していくイメージが付きまとうからです。革新とは、新たに革(あらた)めるというのが字義であり、既存のものをより適切と思われるものに変更するのが本来の意味です。しかし、これが「技術革新」になると、斬新さ(趣向が飛び抜けて新しいこと。趣向や発想などがき際立って新しいさま)が求められるようになります。
けれども、「新結合」は新しい組み合わせなので、必ずしも発想などが革新的(斬新的)、独創的である必要はありません。たとえ新しく結合する要素がありきたりのものであっても、結合された結果、そこに何らかの目新しさが創出されればいいわけです。
独自性は独創性(斬新性)を含みますが、それとイコールではありません。「新結合」によって独自性(目新しさ)を創り出せばいいと考えれば、独自性の創造というハードルはかなり低くなるはずです。しかし、このことを抽象的に語るだけではわかりにくいと思うので、私の実際の事例を使って次に説明します。
私の事務所の事例
私は大阪から事務所移転をして、2021年1月に東京で新たに事務所を開設しました。しかし、いきなりコロナ禍に見舞われて打撃を受けたため、「小規模事業者持続化補助金<コロナ特別対応型>」に応募しました。第3回目となる2020年8月7日受付締切分への申し込みでしたが、無事に採択されました。日本商工会議所のホームページにある「採択者一覧」の「第3回受付締切分(2020年 10月30日 発表)」の「関東」をクリックすると、東京都のところ(PDFの60ページ)に私の事務所の名前が載っています。
ところで、小規模事業者持続化補助金の応募書類の中には「経営計画書」がありますが、それは事業計画書のようなものです。それゆえ、それを作成するにあたり、SWOT分析で私の事務所の状況を分析しました。分析結果は以下の通りです。
プラス要因 | マイナス要因 | |
内 部 環 境 | 強み (1)経営管理ビザに精通している。 (2)申請書類の翻訳(英語と中国語)を自分で行うことができる。 | 弱み (1)新規開業なので東京での認知度がない。 (2)自分の相続問題の処理に追われたため2019年の売上が少ない。 (3)外国人相手だったので事務所のHPがない。 (4)リモート・非対面を可能にする設備がない。 |
外 部 環 境 | 機会 コロナ特別対応型の給付金、補助金が利用できる。 | 脅威 (1)コロナ禍で日本に外国人が来ない。 (2)コロナ禍で対面接触ができない。 (3)コロナ禍で無料相談会が開けない=事務所の認知活動ができない。 |
このSWOT分析に基づき、そこからさらにSWOTクロス分析を行なって私の事務所の戦略を検討しました。最初に強み✗機会の積極戦略を考えましたが、強みと機会が結びつきませんでした。けれども、「経営計画書」の「計画の内容(新型コロナウイルス感染症の影響を乗り越えるための取組)」の選択肢の中に、「非対面型ビジネスモデルへの転換」という項目を見つけました。
これを使えば弱みと機会が結びつくので、弱み✗機会の改善戦略を採用できます。その具体的な施策は、補助金を利用してリモート・非対面機能を有するホームページを作成することです。それによって、ダイレクトに弱み(3)(4)を解消できるだけでなく、弱み(1)、さらには脅威(1)(2)(3)の外部環境も改善することができます。したがって、弱み✗機会の改善戦略をベースに「経営計画書」をつくることにしました。
しかし、改善戦略だけではやはりインパクトに欠けます。「小規模事業者持続化補助金<コロナ特別対応型>」は、応募しても全員が採択されるわけではありません。単に改善案を示すだけでは、他の応募者との差別化がはかれません。しかも、採択率は第1回目が一番高いのは、どの補助金についても言えることです。私が応募したのは第3回目なので、第1回目と比べて採択率が下がることが予想されました。
したがって、採択されるためにはもうひと工夫が必要でした。そして、この工夫のポイントとなるのが、上で述べた独自性の創造です。自分の事業が独自性を持てば、その時点で競合と差別化できるだけでなく、審査員の目も引きやすなります。それゆえ、自分の強みにいかにして独自性を持たせるかを考えました。
そして思い付いたのが、行政書士業務の一環として行っていた翻訳を独立させて、これをもう一つの事業にするというアイディアです。行政書士の中で翻訳を自分で行っている人は他にもいるずです。しかし、それを独立させて士業と翻訳業の2つの看板を掲げている人は、私が調べた限りではいませんでした。
そこで、補助金を使って作成するホームページは、行政書士業務と翻訳業務をそれぞれ独立した形で一緒に掲載できるようにすると決めました。そうすることで、翻訳という新たな事業分野への進出が示せるので、改善戦略から最初は無理だと思われた積極戦略への転換が可能になります。また、翻訳業への進出は業務拡大になるので、審査員に事業の成長性をにアピールすることもできます。したがって、「経営計画書」に記載する事業名は、「オンライン化による業務・業種の拡大と新規顧客の獲得」にしました。
あとは、SWOT分析およびSWOTクロス分析で用いた思考の過程を「経営計画書」のフォーマットに沿って展開して、「経営計画書」を完成させました。それでも、弱み(2)の2019年の売上が少ないという事実は消えないため、業務拡大するとは言っても、前年売上の少ない事業が採択されるだろうかという不安は残りました。しかし、申請金額を削られることなく採択されたので、希望通りのホームページを作成することができました。今、見ていただいているこのホームページがそれです。
いかがだったでしょうか。以上が、私がSWOT分析を使って「経営計画書」を作成し、「小規模事業者持続化補助金<コロナ特別対応型>」を取得したときの実例です。事業計画はよく耳にする言葉だと思いますが、その作り方がわからなくて補助金の申請を諦めている人も多いのではないでしょうか。私の事例を少しでも参考にしてただければ幸いです。もちろん、補助金の申請を私に任せていただければ、採択されるように全力でサポートさせていただきます。
また、事業計画書の作成に役立つフレームワ―クは、SWOT分析の他にもあります。それらを適宜、この行政書士サービスのブログ記事で紹介していきます。乞うご期待!!