経営管理ビザと事業計画書

事業計画書を付けなければ経営管理ビザは下りません

行政書士として開業していると、他の行政書士のところで申請して落ちた人が訪ねてくることがあります。その日に来られた方は中年の中国人女性で、「日本でうどん屋さんを開業したいので経営管理ビザを申請した」と言いました。「ん??中華料理店じゃなくてうどん屋さん???」と一瞬思いましたが、そこは突っ込まずに、彼女が入国管理局に提出した申請書類の写しを見せてもらいました。

その申請書類はきれいなファイルに閉じられていました。私の場合、申請書類はクリアファイルに入れて提出するだけなので、そのていねいな装丁には感心しました。また、書類の中身を読んでも、文章も上手で、これと言った瑕疵(かし)は見当たりませんでした。実際、同席して彼女を私に紹介してくれた華僑の知人も、「なぜ落ちたかわからない」と言います。

しかし、申請書類を読み進めていくうちに、理由がわかりました。事業計画書がないのです。さらに言えば、うどん屋さんを開業するというのに、申請書類の中にはメニューもなければ、従業員リストも入っていませんでした。ちなみに、経営管理ビザは経営者に対して付与されるビザですが、入国管理局は自分で調理する人を経営者とは見なしません。だから、日本で飲食店の開業を目指す外国人は、必ず調理人を雇わなければなりません。また、大きな店だと給仕人も必要となるため、それらの従業員のリストの提出が求められます。

けれども、その申請書類の中にあったのは、うどん屋さんを開業する予定地を示したグーグル・マップだけでした。これでは審査が通るわけがないと思い、そのことを彼女に伝えました。その後、彼女が訪ねてくることはなかったので、この件がどうなったのかは知りません。しかし、事業計画書なしで経営者ビザを申請する人がいるのを知って、ちょっとした驚きました。なぜなら、前回のブログ記事でも書いたように、経営者ビザの申請において、事業計画書の提出は必須だからです。

事業計画書はなぜ必要なのか

それでは、なぜ事業計画書の提出は必須なのでしょうか。それは、上で述べたように、経営管理ビザは経営者に対して与えられるビザだからです。クライアントの中には、日本に投資さえすれば経営管理ビザをもらえると思っていた人がいます。しかし、この考えは完全に誤っています。確かに、経営管理ビザは以前は投資経営ビザと呼ばれていました。けれども、その名称は法改正で経営管理ビザに変更されています。

この名称の変更から、審査の基準が「投資」から「管理」に移ったことが見て取れます。どちらの名称にも「経営」が入っていますから、「経営」が審査のポイントであることは間違いありません。しかし、「経営」という視点で見たときに、比重が「投資」から「管理」にシフトしたことがわかります。それはなぜでしょうか。

前回の行政書士サービスのブログ記事で、日本で実体のない会社を設立し、その資本金として送金したお金を他の目的に充当した事件が発生したことを述べました。その結果、入管はこうしたマネーロンダリング(麻薬取引や犯罪などの違法な手段で入手したお金を、架空口座や他人名義口座などを利用して転々と移転することで出所を分からなくして、正当な手段で得たお金のように見せかける資金洗浄)を防ぐために、資金の流れを重視しています。そして、この「投資」から「管理」への比重のシフトも、同じ理由からだと考えられます。

確かに、経営するためには会社が必要で、その会社を設立するためには投資が不可欠です。しかし、必ずしも投資家が会社を経営する能力があるとは限りません。実際、投資家は株式会社においては株主に当たりますが、すべての株主が経営に参加するわけではありません。むしろ、「資本と経営の分離」(「所有と経営の分離」、「出資と経営の分離」)という傾向は未だに健在です。

だから、企業が発展するにつれて出資者(資本家、法律上の企業所有者)が経営に関与しなくなり、別の専門経営者が経営上の実権(支配力)を持つようになります。つまり、企業規模が大きくなればなるほど、「資本と経営の分離」は強まるわけです。

このように投資家であることが経営能力を担保するわけではないので、投資家が会社を設立しても、その投資家に経営能力がなければ、会社の存続は危うくなります。その場合、その会社は実体のないものになりますが、それは入管の望むところではありません。

したがって、会社に実体性があると判断するためには、その会社の事業が成長・発展することまでは見込めなくても、安定して継続することを予見できることが最低条件になります。だからこそ、「投資」から「管理」への比重のシフトが起きたのです。つまり、経営者は事業の安定性と継続性を保障するために、しっかり管理しなさいということです。

飲食店の経営者が調理することは認められないと上で述べましたが、これも同じ理由です。調理する暇があるなら、その時間を事業の安定性と継続性を保全するための管理に使いなさいということです。このように考えると、すべてに関して辻褄が合います。では、事業の安定性と継続性を見るためには、何が指標となるのでしょうか。

実は、事業計画書こそがその指標になります。さらに言うと、事業の安定性、継続性を問う前に、そもそも計画された事業が成り立たなければ、その事業はただの絵に描いた餅でしかありません。つまり、最初に事業の実現可能性が問われるわけです。では、事業計画書がその事業の実現可能性、安定性、継続性を示す指標となるためには、そこにどのような項目を盛り込めばよいでしょうか。

ビジネスにおける4W3H

ビジネスをした経験のある人であれば誰でもわかることですが、以下のことが決まらないとビジネスは成り立ちません。すなわち、何を(what:自らの商品またはサービス)、どれだけ(how many/much:個数/数量)、いくらで(how much:価格)、誰に(who:顧客)対して売り、そしていつ(when:納期)、どこに(where:納品場所)に納めるかを確定しなければ、商売は成立しないということです。たった1回の商談でも、これら4W2Hについて具体的に取り決めなければ、商談はまとまりません。したがって、事業計画書にはこれら4W2Hの項目を必ず記載しなければなりません。しかし、これだけではまだ不十分です。

私が20代の頃、日本の商社に勤務していたときに、仕入先である九州松下電器株式会社のFA事業部(現在のパナソニック システムソリューションズジャパン株式会社)の事業部長から、「経営とは販売である」と教えてもらいました。それゆえ、事業計画書にはどのように売るか(how to sell:売り方)も含めなければなりません。この4W3Hの項目が事業計画書が盛り込むべき項目のボトムラインになります。

もちろん、取り扱い商品が多数ある場合は、それを全部事業計画書に載せると、表記が煩雑になって見にくくなります。だから、その場合は別途補完資料として作成します。例えば、前述のうどん屋さんのケースでは、メニューがそれに当たります。実際、メニューを見れば、何を(what:自らの商品またはサービス)、いくらで(how much:価格)売るのかが一目瞭然でわかります。

また、事業の内容によっては、事業計画書に追加で書き入れなければならない項目が出てきます。しかし、それを説明するには、事業を特定しなければなりません。けれども、この記事では事業全般に共通する最大公約数的なものを解説したいので、追加項目については別の記事に譲ります。

事業計画のスパンはどのように決めるのか

事業計画をどれくらいのスパン(span:時間の幅)で考えるかも重要です。以前、やはり他所で申請して落ちた人が訪ねてきましたが、そのときに見せてもらった事業計画書では、事業計画のスパンが3ヶ月ごとになっていました。しかし、これでは短過ぎます。

これも、自分でビジネスを立ち上げたことのある人ならわかることですが、特に新規ビジネスの場合はなかなか計画通りには進みません。実際いは、何度も計画の変更を迫られます。そして、それで構わないのです。上述した華僑の知人は華僑流ビジネスの大家で、一時期はよく講演などもしていました。彼によると、「ビジネスにはベストはなく、ベターしかない」。だから、常にベターを求めて軌道修正を繰り返していけば、最適とは言わないまでも、そこそこのところに行き着くそうです。

実際、私の中国人のクライアントも、みんなそのように動いていましたし、そうやってビジネスを立ち上げていました。だから、3ヶ月ごとの計画を立てても無意味だということです。それでは、どのくらいのスパンで計画を立てるのが適切なのでしょうか。

事業計画には3年計画、5年計画、10年計画などがありますが、短期であれば3年計画が一般的です。しかし、私が事業計画を作る場合は、2年スパンの計画にしています。なぜなら、通常、最初にもらえる経営管理ビザの在留期間は1年だからです。

したがって、申請年と1年後の更新年に何をするかだけを書けば十分で、それ以上の記載は要りません。あまり先のことを細かく書いても無駄になるだけです。実際、私のクライアントの中には、更新前にビジネスを変えた人がいます。けれども、その変更後のビジネスを事業計画書の「今後の方針と展開」という項目の中に期限を定めずに入れておいたので、入管から特に咎められることもなく、更新の審査も無事にパスしています。

以上、経営管理ビザの取得に必須である事業計画書について解説してきました。しかし、事業計画が必要なのは、経営管理ビザの申請だけではありません。実は、補助金の申請においても、それは不可欠なものになります。そこで、次回の行政書士サービスのブログ記事では、補助金における事業計画について、実際に私自身が申請して得た補助金の事例を交えながら解説したいと思います。乞うご期待!!

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