英語翻訳の基礎としての英文解釈と英文法

翻訳とは何か

翻訳とは、ある言語の表現形式で表された対象を、別の言語の表現形式に変換する行為を指します。そして、例えば英語から日本語に翻訳する場合、英語を原語、日本語を翻訳語と言い、英文を原文といい、日本文を翻訳文と言います。また、翻訳には直訳と意訳という二つの分類があります。

直訳とは原文の一語一語をたどりながら機械的に翻訳語に置き換えていく逐語的な翻訳で、原文の各語句に対して辞書に一例として記載された翻訳語の語句をそのまま当ていきます。そのため、原文が持つ多義性やコロケーション(collocation:単語と単語のよく使われる組み合わせ、自然な語のつながり、連結語句、連語)、そして語法(その単語が持つ語彙特有の使い方、文脈に応じた適切な単語の使い分け)が訳文に反映されないことが起こりえます。また、原文の文法構造を維持したままで、原文の語句を翻訳語の語句に一対一で置換するため、翻訳語を母語とする者にとってはかなり不自然だったり、まったく意味不明だったりすることもあります。

これに対して意訳とは、発話者(書き手)の意図に焦点を当てて、原文の表面的な文法構造や個々の語句にとらわれずに、文章全体の意味やニュアンスを汲み取る翻訳になります。それゆえ意訳では、原文の文章全体に込められた発話者(書き手)の感情やニュアンス、そして語感を、文脈や文化的背景をも考慮しながら、深く理解して訳していくことが求められます。

したがって意訳では、翻訳語を母語とする者にとって自然な表現であることを優先して、適切な言い回しを選択していきます。しかし、そのためには、原語圏と翻訳語圏の両方において、豊富な言語経験(実際に日常生活や職場で、多くの表現を聞いたり、読んだり、発話しながら相手の反応を見る経験)が必要になります。

なぜ意訳が必要なのか

それでは、なぜこのような二種類の翻訳が現れるのでしょうか。それは、原語と翻訳語の間で、必ずしも単語が一対一で対応するとは限らないからです。例えば、原語では1語で表される概念が、翻訳語では複数語(複数の概念)にまたがって表現されていたり、逆に原語では複数語で表現されているものが、翻訳語では1語となる場合もあります。また、例えば日本語で青と呼ばれるものの中に緑色の植物や信号が含まれていることも、単純な単語の置き換えが不可能なことを示す顕著な例だと言えます。

私は、言語とは世界・対象を切り取って分節化するためのツールだと考えています。そして、言語によって世界の切り取り方が違うために、対象は同じでもその表現は違ってきます。例えば、虹という対象は同じでも、その表現である色は日本語では7色ですが、他の言語では7色に限られません。多い国では8色もあり、一番少ない国だと2色になります。つまり、同じ風景を筆で描くか、鉛筆で描くかによって絵(風景画)の表現が変わるように、言語の違いによっても、世界・対象の表現の仕方が変わってくるのです。

以上のことから、なぜ翻訳が可能であるかという理由が見えてきます。すなわち、原語と翻訳語では表現こそ違えど同じ対象を指しているので、2つの言語間で翻訳が可能になるわけです。さらに、このことから意訳のために必要な前処理についても見えてきます。

意訳のための2ステップ

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上述のように、意訳においては翻訳語圏で自然な表現が選択されます。そしてそうするためには、原文を掘り下げて、それが表現している対象が何であるかを最初に捉えなければなりません。それから、その捉えた対象を翻訳語圏で自然と感じられる文書で表現していきます。つまり、意訳をするためには、この2ステップが必要になるわけです。

意訳では原語圏と翻訳語圏の両方において豊富な言語経験が要求されるわけですが、生まれつきバイリンガルの環境で育った者であれば、その要求を満たせます。しかし、通常の翻訳者は、原語圏における言語経験が翻訳語(母語)圏におけるそれと比べて少ないので、それが翻訳の壁になるわけです。この原語圏における言語経験の少なさという壁を乗り越えて、正確な翻訳、さらには洗練された意訳を目指すには、どうすればよいでしょうか。

その壁を乗り越えるコツは、意訳の第一ステップにあります。第一ステップでは、原文にアプローチして、その表現の根底にある対象が何であるかを捉えるわけですが、ここで役立つのが文法です。文法を使えば、原語圏における言語経験がなくても、原文の構造を客観的に解析すること(物事を分析して論理的に明らかにすること)ができます。そして、原文の構造を解析してそれを正しく理解できれば、その構造に奥にある対象を客観的に把握することが可能になります。

こうして一旦原文が表現する対象を客観的に把握してしまえば、あとはそれを翻訳語圏で自然と感じられる文で表現するだけなので、翻訳者の翻訳語圏における豊富な言語経験を活かせます。このように文法を利用することで、原語圏における言語経験の少なさというハンデを乗り越えることができるのです。

構造理解の鍵となる英文解釈と英文法

英語が原語である場合、英文の構造解析に有用なのが学生時代に学んだ英文解釈です。日本の英語教育が実用的でないと非難されて久しいですが、少なくとも読み書きについては日本の学習参考書をしっかり勉強すれば、実務で困ることはありません。実際、私は留学経験はありませんが、外資系企業で億単位のビジネスを動かしていました。だから、もしも私の英語が通じていなければ、会社に大きな損失をもたらしてすぐに首になったでしょう。しかし、ちゃんと通じていたので長年勤務することができました。

もちろん、聴く能力と話す能力については、学生時代の英語教育だけでは足りません。だから、社会人になってから聴く能力はリンガフォンで、話す能力は英会話学校で補いました。しかし、日本の学習参考書には名著が多いので、読み書きの能力については、これだけで十分養えます。

そもそも母国語で理解できないことが英語で理解できるわけがありません。だから、まずは日本の学習参考書の内容を確実に理解することが英語習得の早道です。実際、私はそうやって英語を身に付けましたが、英文解釈については特に原仙作先生の『英文標準問題精講』や伊藤和夫先生の『英語長文読解教室』のお世話になりました。しかし、最も愛読したのは木村明先生の『英文法精解』です。

英文法の理解なくして英文の構造理解はない

『英文法精解』はかなり分厚い文法書ですが、辞書のようにしょっちゅう引いていました。英文解釈と言っても、その基本となるのはあくまで英文法です。だから、英文法の理解なくして正しい英文解釈、正しい英文構造の理解はありえません。そして、『英文法精解』は第1章で英語の文章についてかなり詳しく解説しているので、そこを何度も読みながら、英文解釈の参考書に取り組んでいました。そして、高校2年生のある日、突然、英文法の奥義に開眼したのです。

その瞬間は完全に舞い上がって、英語のすべてがわかった気になりました。そして、あとは英単語を覚えるだけで良いと考えました。その結果すっかり慢心して、高校3年生のときには一回も英語の教科書を開きませんでした。試験勉強も、真面目な友人のN君が教科書の和訳ノートをつくっていたので、それをコピーさせてもらって前日に読んだだけでした。さすがに良い点は取れませんでしたが、それでもクラスの平均点はクリアしてました。

しかし、英単語を覚えることまで怠ったため、当然の如く受験は失敗。浪人時代に森一郎先生の『試験に出る英単語』を必死で覚えて、ようやく大学に入学できました。そして、大学時代に松本道弘先生の『私はこうして英語を学んだ』を読んで英語の奥深さを知り、自分の傲慢さを反省しました。

そして、自分も英語を読み書きだけでなく、松本先生のように聴いて話せるようになりたいと思い、再び英語に取り組みました。しかし、それでも英語の勉強の中心はやはり英文法でした。だから、”英文法おたく”となって、大学卒業後も英文法に関する本を読みあさりました。その結果、従来の英文法理論では飽き足らなくなり、独自の理論を構築するようになりました。それは従来の理論とはかなり異なるところもありますが、それによって英文法に関する事象を従来の理論よりもシンプルかつ合理的に説明できるようになったと自負しています。

高2のときに開眼した奥義については次回の翻訳サービスのブログ記事で書きますが、独自の英文法理論についても、これから翻訳サービスのブログ記事で公開していきます。乞うご期待!!

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